米国でPFASの規制がバイデン大統領時代より緩和された、何かおかしいぞ

 今年の5月末からアメリカ合衆国環境保護庁(略称:EPA)は、有機フッ素化合物(略称:PFAS)の規制についてバイデン大統領時代の規制内容よりPFOAとPFOS以外の大部分を撤廃しました。その社会や環境に対する影響はどうなって行くのでしょうか。日本の状況も踏まえて、皆さんと一緒に考えてみましょう。

 まず、EPAはPFAS類のうちPFHxS, PFNA, HFPO-DA (GenX), and PFBSを連邦政府の最大汚染レベル(Maximum Contaminant Levels (MCLs))から撤廃するよう提案しました[1]。その理由としてこれら4種の化合物の以前の規制量はバイデン大統領時代に誤った行政手続きで成立されたもので無効であるとEPAは説明しています。一般によく検出されしかも毒性の高いPFOAとPFOSの飲料水での規制量を現行の4.0ppt(4.0ng/L)を残しています[2]。

しかし、この上水に対するPFOAとPFOSの規制についてはその施行の最終的な開始期限を2年間、2029年4月から2031年4月まで2年間延期するようEPAは提案しています[2]。

一般市民や環境保全の団体はこの提案についてPFAS関連の化合物の限度を撤廃するとガンや心臓疾患などの危険が増すと強く反対しています。またこれらの反論では、規制を弱めることが「安全飲料水法」の「逆戻り」防止の原則に違反するのではないかとも言っているのです[1,2,3]。EPAは連邦政府の機関ですが、それでは、州の機関の反応はどうであるかと言うと、連邦政府が4種類のPFAS関連化合物の最高濃度の規制を撤廃しようとしているので、数州ではこのような規制のギャップを独自の標準を作って補う計画をしているようです。しかし、主要PFAS類(PFOAとPFOS)の安全性を保ちながらこのようなPFAS類の最高濃度の規制の緩和、逆戻しは連邦政府のPFASの監査能力をかなり弱めるものと一般市民は考えています。

飲料水のPFAS類の規制の緩和の理由としては、下記のような事項が挙げられています[4]。

・司法的に実施が困難である:EPAはPFAS類の従来の規制は司法上の手順を一つずつ行うのが難しい。従来のSafe Drinking Water Actは訴訟などのチャレンジがある。
・実施のハードルが高く費用もかかる:特に地方の小規模の上水施設では経済的な費用とインフラ施設の完備で厳格な基準、順法の期限に間に合わせるのが困難で手間がかかりすぎる。
・基準に合う期限の延長が提案されている:上記のようにさらに2年間(2029から2031年まで)の期限の延長は該当の水質管理施設を強化してPFOAとPFOSを処理し、分析能も4ppt規制を可能にさせるには十分なのか。
・法律の規模の削減:EPAは連邦政府でのPFHxS, PFNA,GenXとPFBSの4種類の化合物の規制を撤廃し適切な管理下でこれらを再検討するため。

PFAS類の規制の撤廃、緩和で有利になる産業について
このように、産業に有利な政策をもたらせるトランプ政権のもとで、PFAS類の規制の削除、緩和、逆戻しを行って有利になる産業とは何なのでしょうか。

米国製造業会(略称:NAM)の報告によると、化学産業、半導体製造業、航空・防衛産業、上水、工業用水、公共の水質管理の施設などPFAS類の規制の緩和によって一番利益を得ると報じられています。特に、化学工業ではスーパーファンド法(CERCLA)によるレメデエーション(修復)に使う費用、訴訟などにかかる費用が大幅に削減されると思われます[3]。

また、EPAの飲料水のPFAS類(PFHxS,PFNA,GenX,PFBS)の規制の逆行、緩和、実行期限の延長でこれらの業界の運営費、訴訟費が上記の業界で節約できると思われる[3]。弱化した飲料水のPFAS類の規制とは言え、年15億ドルの費用が施行だけで必要といわれ、さらに400億ドルから9000億ドルがインフラ施設の増設などで必要といわれていますから、PFAS処理の米国の経済への影響は今後の問題です。

さて、水処理、とくにレメディエーションに必要なコストはミネソタ州だけでも20年間140億ドルから280億ドルと予想されていて、連邦政府がPFAS類規制の緩和を図ったのはミネソタ州にとっては予算保護の盾になりました。

廃棄物管理では下水処理と固形廃棄物の管理施設で従来の厳格なPFAS類の分析、処理をすれば、管理のコストが37%増加すると言われています[5]。

消費製品(パルプ、紙、繊維、パッケージング製品の製造業)[6]について
PFAS類の化合物を「汚れ防止、撥油性、防水」に使う産業 (例えば、雨着、ファーストフードの容器、カーペットの製造業)は行政的に強いられ、急速な変化を避ける傾向があります。PFAS類の規制の緩和、逆戻し、撤廃で恩恵を得る産業でのコスト節約はパルプ、製紙、繊維産業のみでみても、排水処理とパッケージングの改良で節約できる費用は年間30億ドル以上と予測されています[7]。

今後の問題点
トランプ政権の環境保全や国民の教育、福祉、健康に対する方向づけは連邦政府ができるだけ手を出さないで、(予算を極端に削減して)これらの、任務の責任を州に任せることのようです。PFAS類の規制の変化にしても、連邦政府ができるだけ関与しないで、各州でそれぞれの規制濃度を決定して、行政的には各州で行うことになるでしょう。そうすれば、裕福で既にPFAS類対策の概要の整った州が優位な地位を占め、その他の州は優位な州の政策に従うことになるでしょう。また、ミネソタ州、ミシガン州などで3Mやダウ・ケミカルの大手の化学産業のある州では、政治献金[7]や産業からの政治的な圧力でPFAS類の適切な安全対処が困難になることも考えられます。

PFAS類の規制によって、フッ素系の化合物に取って換わる物質(PFAS-alternatives)の需要が増えるでしょう。水、オイル、グリース、化学製品、汚れ防止、などではすでにフッ素フリーPFAS代替物質が使われ始めました。このような、フッ素フリーの表面活性剤、シリコン系の化合物、炭化水素系ワックス、バイオ・コーティング剤、セラミックス、ソル・ゲルのコーティング剤などが使われています。コーティング剤のみではなくて、フッ素フリーの消火用フォーム(泡消火剤)など、繊維業、半導体製造業、日用品、食品パッケージング業にも多く使われてきました[8]。

全世界的なPFAS類代替物質のマーケット・サイズは2025年でUSD 4.15 billion(41.5億米ドル)、2026年のそれはUSD 4.70 billion.(47.0億米ドル)。 2024年予測はUSD 12.68 billion(126.8億米ドル)とされています。マーケット・サイズの伸びは年間CAGR(年平均成長率):13.2%、そのうち、北米が占めるシェアは36.38% (2025),製品分野ではシリコン系の化合物が最高のマーケット・シェアを占め、業界別ではパッケージング業が最高位でした[8]。

近い将来に、フッ素フリー(PFAS非含有)の化学物質がPFAS類に代替して色んな製品に、多くの産業で利用されると思いますが、既存のPFAS類の長期にわたる生物への影響は長く続くのでその分析、レメデエーション、管理は下火にならないでしょう。また、PFAS類代替物質の安全性、特に、市場シェアの最高位を占めているシリコン系の物質が人体に及ぼす影響は今後の課題となります。

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参考文献
[1]Trump administration withdraws proposed PFAS effluent limits | Wastewater Digest
[2]EPA Advances Comprehensive PFAS Strategy with Legally Defensible, Practical, Scientifically Sound Drinking Water Protections | US EPA
[3]Trump EPA Weakens PFAS Water Protections, Public Health at Risk
[4]EPA Proposes to Rescind Certain PFAS Drinking Water Standards | Jones Day
[5]Groundbreaking study shows unaffordable costs of PFAS cleanup from wastewater | Minnesota Pollution Control Agency
[6]PFAS regulations and economic impact: A review of U.S. pulp & paper and textiles industries – ScienceDirect
[7]New research warns PFAS could become multi-billion-dollar threat to financial markets – Planet Tracker
[8]PFAS Alternatives Market Size, Share | Industry Report [2034]

(このコラムの監修者:技術顧問 ポール佐藤)